コンピュータ断層撮影(CT)検査における非放射性キセノン血流動態検査(キセノンCT検査)は脳血流測定方法として古くから用いられている手法であり,躯幹部臓器への応用に関してもいくつかの報告が見られる。しかしキセノンCT検査では経時的に撮像を繰り返すため,肺や上腹部領域において,呼吸深度の差異に起因する臓器の位置の不一致が血液マップ作成上の問題点として指摘されている。本研究では多列検出器型CT装置(MDCT)のらせん走査を用いた呼吸性移動の補正を目的とし,ファントム実験による撮像条件の検討に引き続き,臨床例への応用と妥当性の検証を行った。ファントム実験では,MDCTにおける軸位撮像のCT値の変動は単検出器型CTによる軸位撮像と比較して大きかった。一方,らせん走査ではCTの変動は小さかったが,大きな寝台移動速度ではアーチファクトが著明であった。管電圧に関しては80kV と120kVでCT値の変動に有意な差は認められなかった。従って臨床応用では管電圧80kV,小さな寝台移動速度によるらせん走査を採用することとした。臨床応用では,7別に対してらせん走査による呼仮性移動の補正の有用性を検討した。全例において呼仮性移動が認められたが,いずれの症例についても,らせん走査により得られた再構成画像を使用することにより呼仮性移動の補正が可能であった。算出された肝血流マップ上の有効なピクセル数は,呼仮性移動の補正を用いることで補正のない場合と比較して1.1-46.0%増加し,特に肝辺縁部でのピクセル数の増加が著明であった。MDCTは高いCT値の再現性を有し,連続したデータ収集により呼吸性移動の補正が可能であることから,キセノンCT検査による肝局所血流測定法の有用性を向上する可能性が示唆された。