血中グルコースは脳細胞に供給される唯一のエネルギー源であり,血中グルコース濃度の増減は認知機能に影響を及ぼすと思われる.そこで,本研究は血中グルコース濃度の変化が認知機能に及ぼす可能性を,前頭葉機能を評価できるストループ認知課題を用いて,実験的に調べた.さらにストループ認知課題は精神的ストレス課題としても知られているため,血糖値の変化がストループ認知課題中の心血管系応答に影響を及ぼすか否かを調べた.9名の健康成人(23±2.0才)を19±0.9時間絶食させた後に300mlの水または20%グルコース溶液を経口摂取させ,低血糖(82±2mg/dl)あるいは高血糖(176±5mg/dl)の状態を作成した.対照コントロールとして,普段通りの食生活をさせた場合の血糖値を正常血糖(106±6mg/dl)とした.これら3つの条件下において200問から成るストループ認知課題を実施し,課題遂行における所要時間や誤答数ならびに脈拍数,平均動脈血圧を測定した.その結果,ストループ認知課題遂行における所要時間は低血糖において有意に延長したが,誤答数に関しては有意な相違はみられなかった.またストループ認知課題は脈拍数および平均動脈血圧を増加させたが,血糖レベルの違いはこれら心血管系応答に有意な影響を与えなかった.以上の実験結果は,血中グルコース濃度の低下はストループ認知課題に対する反応速度を低下させるが,心血管系応答には影響を及ぼさないことを示唆した.