Suzanne Romaine は著書Socio-Historical Linguistics: Its Status andMethodology (1982)において,社会言語学的モデルを歴史的データに当てはめるという革新的な研究成果を発表した。その後,30年の間に,コンピュータによるデータ処理が現れ,ジャンル,方言,書き手,そして日付などを表す膨大な歴史的コーパスが編纂され,データが断片的であるという本分野における問題が解消された。Romaineの研究から30年たった今,このハンドブックは,歴史社会言語学という学問分野の力強さを立証するものである。国際的に著名である投稿者の世界各国からの論文を集めた本書は,この分野の包括的で有益である参考書であり,歴史的または非歴史的社会言語学,言語と方言の接触,そして言語変化を扱う研究者,あるいは上級の学生に向けられたハンドブックである。
本稿においては,まず序章(Introduction)をまとめて本書を概観する。その後,通時的研究と共時的研究の関係に関する第1章,社会的ネットワークと言語変化の関係に関する第18章,そして言語の拡散に関する第23章についてその骨子を紹介する。