廣瀬(1992c)では, 複数の異なる意味をもつ漢字を第1文字とする熟語は, 複数の熟語群を形成して記憶されていることが示唆された。本研究では, プライム刺激とターゲット刺激間の刺激間間隔を500msに設定し, 刺激間間隔が2000msであった廣瀬(1992c)の実験結果と比較することにより, 熟語の第1文字であり複数の異なる意味をもつ漢字の認知過程について新たに検討した。実験の方法は, 廣瀬(1992c)と同様にプライミング効果を指標とし, 語彙判断課題が用いられた。実験結果は, 多義語の認知に関するモデル(網羅アクセスモデル)を基に考察され, 熟語の第1文字であり複数の異なる意味をもつ漢字の認知では, 「全ての意味の活性化から特定の意味の活性化へ」という過程が存在することが示唆された。今後の課題としては, 順次アクセスモデルの観点から, 意味の使用頻度の要因を加えての認知過程の検討の必要性が示された。