本稿は、日本人大学生の作文に見られる、中国語の形容詞の誤用を記述し分析したものである。1)述語の誤用; 2)「定語」(連体修飾語)の誤用; 3)「状語」(連用修飾語)の誤用; 4)補語の誤用; 5)形容詞混同といった5つの部分から構成されている。述語の誤用については、繫辞"是"の濫用と副詞"很"の脱落と添加の問題を取り上げ、"吃香"、"尊贵"、"愉快"、"好喝"、"黑"、"寂静"、"宽敞"、"快乐"、"可笑"などの意味的共起の誤用、"青"と"盛大"の統語的共起の誤用、そして"勤快"と"美丽"の文体的共起の誤用を検討して、共起の分析をした。そのうえ、述語が連用する場合、"积极"と"苗条"が前項述語と意味的に整合しないという誤りを指摘し、形容詞と結合するアスペクト表現としての"起来"と"起来了"の使い分けを説明した。「定語」の問題としては、まず、多様な構造の形容詞句が名詞を修飾する際の"的"の挿入の必要性を議論し、"的"の添加によって生じる意味の差やその添加が不要な場合の条件などの説明を試みて、助詞"的"の使用をめぐって分析を展開した。それから、"不错"を例にして、定語になりがたい形容詞や、感嘆文の述語として働く形容詞(句)が定語にならないという統語現象に言及し、"多"と"少"及び"长"が単独に定語にならない問題を考察した。さらに、"漂亮"、"出名"、"好"、"积极"などの誤用を例に挙げ、定語になる形容詞の意味的条件を述べると共に、多項目定語の語順の問題にも触れた。
「状語」(連用修飾語)の問題については、"慌慌张张"、"热烈"、"积极"とを例に、動詞と共起する場合の意味的制限を説明し、形容詞"多"が連体修飾の名詞だけでなく、連用修飾の動詞句を構成するという副詞化の傾向を指摘した。補語の誤用に関しては、どのような形容詞を動詞の補語に用いるのか、そして形容詞を動詞の補語に使うか否かという問題に注目した。前者の問題としては、"亲切"、"积极"などが動詞の補語に不向きということを立証する一方、後者の問題としては、願望表現の場合の"流利"や、"好吃"のような形容詞が補語にならないことを証明した。形容詞混同の問題としては、"红"を名詞に用いたり、名詞"红颜"と"名胜"を形容詞に使ったりする誤用を検証して、名詞と形容詞との混同を解明した。そして、形容詞"重要"、"富有"、"合适"、"充实"、"快乐"、"进步"、"近"などが動詞として使用されたり、動詞"盛行"と"体贴"が形容詞として使用されたりするというような動詞と形容詞との混同を検討した。