網膜電図(electroretinogram, ERG)解析は,視機能評価の指標の一つとしてしばしば用いられる手法であるが,ERGの概日リズムの詳細については殆ど知られていない。本研究では,ERGの概日リズムが常暗条件(DD)下で自由継続するか否かを調べた。また,視交叉上核(suprachiasmatic nucleus, SCN)を破壊したラットを用いて,自発行動リズムの制御機構であるSCNとERGの概日リズムの関連について検討した。実験は,ERG記録用電極をSCNを破壊した雄性Jcl:Wistarラットあるいは無処置のラットの眼球内に埋め込み,ERGを解析した。ERGは12時間照明周期(LD)下で無麻酔・無拘束下に4時間毎に48時間記録し,そのa波及びb波の振幅を計測した。その後,無処置ラットはDD下で飼育し,DD開始61,85,97及び117日後に各個体のERGを無麻酔・無拘束下で4時間毎に48時間記録した。また,飼育ケージ内に取り付けた赤外線センサーを用いて自発運動量を記録し,ERGの概日リズムとの比較を行った。その結果,無処置ラットでは,いずれの測定日にもERGのa波及びb波の振幅の変化におよそ24時間周期の概日リズムが認められ,LD下だけでなくDD下で長期間飼育した場合でもERGに概日リズムが存在することが確認された。a波及びb波の振幅のリズムは各DDの記録日で頂点位相がシフトし,24.50時間周期の自由継続がみられた。自発運動量においても同様な概日リズム及び24.50時間周期の自由継続がみられ,自発運動リズムの位相はERGリズムの位相と個体毎に一致していた。一方,SCN破壊ラットでは,LDにおけるERG及び自発運動リズムが消失していた。以上より,ラット網膜の光に対する反応性は長期DD下においてもLD下と同様に概日リズムを示し,かつ自由継続することが判明した。このリズムは自発運動...