ヒト甲状腺乳頭癌の癌関連遺伝子の生物学的意義を知る目的で, 21例のパラフィン標本を用いて, 癌関連遺伝子産物(c-erbB2,EGFR, EGF, TGF-α, p53,p27,c-Met, cyclinD1,cyclinE, cdc25B, E2F-1,CD44,nm23)の発現を免疫組織化学的に検討し, 発現した癌関連遺伝子産物相互の関連性を検討するとともに, 癌関連遺伝子産物の発現と臨床病理学的事項との関連性についても検討を行った。癌関連遺伝子産物の発現で新しい知見としては, cdc25Bの過剰発現は47.6%とほぼ半数に認められ, c-Metの発現は認められず, E2F-1免疫活性陽性例の割合は4.8%と少なかったことがあげられた。癌関連遺伝子産物相互の相関性については, cdc25Bの過剰発現とTGF-αおよびEGFRの発現との間に有意に相関を認め, EGFRの発現はcyclinD1の発現とも有意に相関が認められたことから, 細胞増殖シグナルによりcdc25BとcyclinD1が活性化を受ける可能性があること, 発癌にcdc25BおよびcyclinD1の過剰発現が大切な役割を果たしている可能性があることが示された。臨床病理学的事項との相関性については, nm23蛋白の発現抑制と気管傍リンパ節転移との間に有意な相関が認められ, nm23遺伝子は甲状腺乳頭癌においても転移抑制因子として機能している可能性があることが示された。