広島外国語教育研究 25号
2022-03-01 発行

Sequential Organization of L2 Complaint Strategies by Japanese and Thai Learners of English

不平表現方略の順序構造 : 日本人とタイ人英語学習者を対象にした比較研究
YAMAUCHI, Yuka 外国語教育研究センター 広大研究者総覧
UMEKI, Riko
本文ファイル
抄録
本研究の目的は,日本人・タイ人英語学習者の不平表現方略を調査・比較することである。「不平」とは,他者の過去や現在の行動に対する不満や不賛成を表現するものであり,深刻なフェイス侵害行為のひとつである。しかしながら,従来の研究では,依頼に代表される他の主要な発話行為と比較して,不平の発話行為はあまり研究の焦点となっていなかった。また,英語がグローバル言語として使用されているEnglish-as-a-Lingua-Franca 環境では,異なる母語や文化的背景を持つL2 学習者が,不平表現方略を同様に使用しているのか否かを検証することは重要であると考えられる。本研究では,日本人とタイ人の英語学習者を対象に,社会的地位(Power)と心理的距離(Distance)を統制した談話完成テスト(discourse completion test; DCT)を実施した。DCT は,アカデミックな文脈における4 つの状況(例:エッセイの成績について教授に不平を言う)で構成された。調査で得られた筆記データは,主要行為部(head act)と呼ばれる中核的な情報(例:私の評価が悪い理由を教えてください)と,補助手番部(supportive move)と呼ばれる周辺情報(例:こんにちは,お邪魔しますが,今,時間ありますか)に現れる言語的特徴の頻度の観点から分析された。さらに,両言語話者による不平表現方略を構成する上述の情報の出現順序についても分析された。その結果,タイ人学習者は不満をより直接的に表現するのに対し,日本人学習者は主要行為部を示す前に,より多くの補助手番部を提示する傾向があることが明らかになった。これらの結果は,母語や文化的背景の違いがL2発話行為の遂行に影響を与えることを示唆している。特に,本小論は異文化誤解に影響を与える可能性のある,方略の出現順序構造の特質を特定することに役立つと期待される。
内容記述
This study was supported by KAKENHI Grant 17K02973 from the Japan Society for the Promotion of Science.
This paper was originally read at the 2019 APLX International Conference on Applied Linguistics held at the National Taipei University of Technology (Taipei Tech) on October 31, 2019.
権利情報
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