本稿では,ジョウゼフ・コンラッドの「青春」,『闇の奥』,『ロード・ジム』を,言語行為論を用いて分析する。まず,J. L. オースティンの『言語と行為』における「寄生的」(parasitic),およびサールの「フィクションの論理的身分」における「不真面目」(nonserious)という用語の使用について検討する。その上で本稿では,オースティンによる言語行為論の全体的枠組みを維持しつつ,これらの二つの用語を,それぞれ「共生的」(symbiotic)および「虚構的」(fictional)に置き換える。つまり後者の対照語は「真面目」(serious)ではなく「非虚構的」(non-fictional)となる。またサールによる断言型(assertives)カテゴリーの提示が言語行為の分類に果たした貢献について論じる。
コンラッドの三作品の分析では,断言型カテゴリーに属する断言の使用に注目する。これらを通じ,コンラッドが非虚構的な要素を正確に描くことに注力していたことを検証する。最後に,英語学習者向けのリトールド版『ロード・ジム』を取り上げ,このようなリトールド版の読者がコンラッド作品の醍醐味をもっと味わえるためにはどのような改善が可能か,さらにコンラッドの短編小説の方が長編作品よりも英語学習者の学習に適しているのかどうかについて論じる。