本共同研究の目的は,学校教師が,専門科学(研究)者が行う研究を教材研究として読み解き,その読み解きから一人の研究者の「学習」過程を読み取り,授業づくりに応用する,論文読解から学習構造への変換システムを開発することにある。
本稿では,小学校における教科横断型単元を開発するために,社会科と英語科が協働して進めるCLIL(Content and Language Integrated Learning : 内容言語統合型学習)単元を事例に取り上げる。社会科と英語科の教員がフロイド=シュモーの活動を共通事例に,それぞれの教科授業を構想し,協働した単元を作るために,共通の教材研究として用いた論文(著書)読解を研究対象とした。ここではシュモーに学ぶ会編『ヒロシマの家-フロイド=シュモーと仲間たち-』の読解から,専門科学(研究)者の「真正な学び」を学習者の学びへと変換する過程と,その構造を解明した。そのうえで,小学校社会科・英語科が協働するCLIL 単元を開発し,その開発過程を説明した。この教材研究からCLIL 単元作りへの過程をどのように進めたのかを明らかにすることを通して,教科横断型単元開発における,著書読解,その教材研究,単元づくりという教師の学びのプロセスを明らかにした。
明らかにした点は,次の3 点である。
(1)小学校段階においても,またその教科横断型単元開発でも,論文(著書)読解による研究者の学びの構造理解は教材研究-単元づくりの過程に有効に活用することができる。
(2)小学校段階では,単元づくりにおいて,論文(著書)読解で見いだした研究者の学びの構造は応用・活用できるが,発達段階,学習環境に応じて別のものに変えた方がよい場合がある。教科横断型単元では2つの教科における学習双方に有効な材料を見いだすことが戦略上,大切である。
(3)教材研究としての論文(著書)読解において重要なことは,
1)その論文(著書)の構成に示されている構造の発見である。
2)その構造が示す中心観念である。そして,その中心観念が単元づくりの中心に活用できるかどうかを検討することである。
3)小学校の教材研究と単元づくりでは,発達段階や子どもの学習における適切性である。