本研究では,理科教師の信念に関する先行研究の精査と5名の熟練理科教師のライフストーリーの分析により,理科教授の目的・目標についての信念の発達を明らかにすることを通じて,現職教育及び教員養成教育において理科教授の目的・目標についての信念を発達させることの価値とその具現化に向けた示唆を得ることを目的とした。まず,先行研究を精査し,理科教授の目的・目標についての信念という概念を明確化した。次に,信念の発達を明らかにすることに適した研究の方法論としてライフストーリーを採用し,それに基づいたインタビュー調査を計画・実施した。さらに,得られた語りを分析し,学校の内外を問わず様々な経験が理科教授の目的・目標についての信念を明確にするような影響を与えていること,学校外での経験をきっかけとして新たな概念が理科教授の目的・目標についての信念に加わる場合があること,理科教師になった時点で保持していた理科教授の目的・目標についての信念が教職生活を通じて変わっていないことを明らかにした。以上の結果を踏まえ,教職生活における理科教授の目的・目標についての信念の発達が学校内外における理科教師の連続的な学びとして捉えられること,教員養成教育が理科教授の目的・目標についての信念を構築する場として重要な役割を担っていること,という現職教育及び教員養成教育において理科教授の目的・目標についての信念を発達させることの価値とその具現化に向けた示唆を得た。