地域経済研究 20号
2009-03 発行

中国における工業化の進展と農工間資金移動の役割 <論説>

The Contribution of Money Flow from Rural to Urban Areas in Chinese Dual Economy
奥田 麻衣
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抄録
近年中国の経済規模が大幅に拡大しており、世界全体に与える影響も年を追うごとに大きくなっている。一般的に、経済発展の初期段階では実質賃金の上昇が見られない。これは農村に膨大な過剰労働力があり、都市の賃金が上昇すると彼らが都市に移動して賃金の上昇分を取り込んでしまうからである。中国はこの膨大な労働力を利用することによって工業化を進めており、またその安価な労働力の利用を目的に海外からの直接投資も増加してきた。しかし、その一方で中国で労働力が不足しているという報告も増えている。

本稿では、中国の工業化の進展が、産業構造や労働市場にもたらす変化を検討する。各省ごとに農業部門流出労働力と実質賃金の関係を見ると、1990年前後に実質賃金の上昇が見られる。他方、工業化の進展には、工業部門の資金調達が重要な課題である。日本の明治期には、鉄道・電話などの分野で農業部門からの融資が行われ、この農業部門から工業部門への融資が近代部門の成長を促したことが知られている。そこで、金融面に注目し中国の農工間の資金移動を推計すると、1989年を境に農業部門が余剰資金の発生する黒字主体となっていることが観察され、この余剰資金が工業化を促進したことが確認された。
キーワード
中国
二重経済
農工間資金移動
dual economy
China
money flow
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