地域経済研究 14号
2003-03-31 発行

職業能力開発と地域レベルでのパートナーシップ <論説>

Regional Partnerships for Development of Employability
香川 敏幸
伊藤 裕一
本文ファイル
抄録
労働市場における雇用対策として、職業能力開発が近年脚光を浴びている。一方で、単独で職業能力の開発のみを行っても、失業率の低下につながらないのではないか、という問題をめぐって常に批判されている。そのためこの政策は、地域レベルでのパートナーシップを用いながら運営された場合に、より効率的な政策効果を追及することができる、というのが本研究の問題意識である。

そこで以下では、1) どうしてパートナーシップという政策運営の手法が必要なのか、伸縮的な労働市場を前提とする理論的なフレームワークを用いて提示し、2) それが実際にはどのように運営されているのかを、事例研究を通じて明らかにし、3) このパートナーシップに基づく運営の成否のためには、どのような点が重要であるか、について考察する。具体的にケーススタディの対象としたのは、イギリスの若年失業者向けニューディール政策がイングランド北東部のサンダーランドで実施された例である。

得られた知見は、以下の3点である。

1) 職業能力の開発は、能力の向上した個人が雇用されるような新規雇用が必要であり、そのためには地域レベルでの投資活動と雇用政策がリンクしている必要がある。また、失業という問題は多様な問題を内包しているため、単に雇用主と公共職業サービスだけではなく、地域レベルにおける多様な主体がパートナーとなりサポート体制を作っていく必要がある。

2) サンダーランドでは、政策の運営会議がパートナー間で定期的にもたれており、訓練センターなどが共同で設立されている。

3) パートナーシップの成功のポイントは、その規模と、パートナー間の信頼関係である。規模に関しては、参加者数が多過ぎないことが重要である。また信頼関係を築いていくためには、特に民間企業の政策参加の負担を減らすために、公的機関が柔軟に対応できるか、という点を挙げることができる。

本稿の最後には、今後の職業能力開発の政策の展望と、日本への示唆について触れる。
キーワード
職業能力開発
パートナーシップ
ニューディール政策
官民の信頼関係
Development of employability
partnership
New Deal policy
trust between public and private
SelfDOI