本稿は、イギリス・ブレア政権におけるニュー・ディール政策について、特に若年向けの失業者支援政策と地域雇用におけるその新たな役割について先導的な事例から知見を得ることを目的としている。
若年向けニュー・ディール政策は、97年総選挙で勝利した労働党が、6ヶ月以上失業している18歳から24歳の男女を対象に、就職活動、再訓練などを支援するために98年から導入した政策で、個人アドバイザーによるきめ細かなサービスを特徴としている。
このニュー・ディール政策は地域レベルで実施され、したがってその地域の産業、教育等の機関とのネットワーク作りが重要である。本稿ではロンドンのランベス地区を中心としていくつかの地域のケースを取り上げ、雇用福祉政策がどのような対象にどのような影響を与えているかについて、一定の評価を試みる。結論としては、パートナーシップは形成過程が重要であり、「提携ないし共同関係の疲弊」といったパートナーシップの形成、運営上での問題を避ける必要があることが指摘できる。また、ニュー・ディール政策はマクロ的、長期的な影響を測るには規模が小さく、政策実施からの時期の問題があるが、各個人レベルでみれば、既に好影響が表れているといえる。
最後に本稿の今後の展望として、欧州連合(EU)での労働政策の統合過程の中での位置付けを試みる。98年よりEUで導入された「ルクセンブルクプロセス」という欧州雇用戦略に基づく各国の政策協調プロセスでも、イギリスのニュー・ディール政策は積極的にアピールされている。このようにニュー・ディール政策は、欧州における、EU、国家、地域の間でのパートナーシップ形成にも貢献しているといえる。