本稿は、中国地方の自動車産業におけるサプライヤー企業の事業展開の特徴をアンケート調査に基づき実証的に明らかにするものである。新規の事業展開の状況を(a)取引先の拡張および(b)生産品目の多角化の2つの方向から調査した。分析の結果、調査対象企業の新分野への事業展開は全体的にはサプライヤー企業の事業内容を大きく展開するまでには至っていないことが明らかになった。その背景にあるのは、サプライヤー企業の経営資源・能力の自動車部品事業への固定化である。自動車という商品のライフサイクルの長さ、顧客企業との長期継続的で相互依存的な取引関係が、サプライヤー企業の技術や業務システムを特定の顧客企業との取引に固有で、特定の部品や工程に特化したものへと方向づけていると考えられる。既存の事業分野のみに依存した事業展開では中長期的な成長に限界がある。したがって、サプライヤー企業が長年にわたって維持してきた下請け関係を脱し、新事業展開を行うためには、広い戦略視野を持った戦略革新が不可欠である。