水田状態で作土の直下に集積したマンガンあるいは作土中に存存しているマンガンが畑地条件で牧草にいかに吸収せられ,牧草の生育にいかなる影響をあたえるかの知見をえるため著者らは集積マンガンの可溶化に関しての検討を進め,また土壌マンガンの牧草による吸収状況を検討し,つぎの結論をえた.
(1) 土壌に集積したマンガンは土壌のpHの低下により置換態マンガンとして可溶化する. しかもpH4.5 以下で急激に可溶化する.
(2) 易還元態マンガンの溶出は土壌pHの変化により大きく影響をうける事はない.
(3) 本土壌中の鉄とくに置換性および易還元性鉄の放出はpHによりマンガンにおけるような影響はうけず,比較的一定であった.
(4) 土壌pH の低下により,牧草に吸収されたマンガン量はその生育が極端に低下しないかぎり,増加するものと結論できる.また牧草体中のマンガン濃度は土壌pHの低下により急激にまし,これは土壌よりのマンガン溶出液のpHの低下による集積マンガンの溶出度の上昇に比例的である.
(5) 1番草に比較し,より刈取回数が多くなると牧草中マンガン濃度が増してくる.このことは刈取が進むにしたがって,根より土壌への有機物の供給により還元化がすすみ,より多い易還元態マンガン溶出によるものと考えられ,土壌の還元化はマンガンの溶出を促進する.
(6) 水耕栽暗による各種牧草に対するマンガン濃度試験の結果,マンガン過剰による葉への褐色斑点の出現は水耕液のマンガン濃度10ppm 以上でみられ,休内のマンガン濃度は300ppm 乃至600ppm. MnO/Fe2O5比率は1/0.2 乃至1/0.5 であった. pH調節土壌による土耕栽培試験によると1審草の場合pH4.5 以下でオーチヤードをのぞくすべての牧草で600ppm 以上になりMnO/Fe2O5比率もかなり低いものとなっていた.
(7) 燐酸イオンの存在は土壌よりの置換態マンガンの溶出を抑制する.しかし易還元態マンガンの溶出に対しては影響は小さいものと考えられた.
(8) 本土壌に対する燐酸の施用は牧草の生育を良好にし,牧草体中のマンガン濃度の低下lこ効果がある.