広島大学水畜産学部紀要 6巻 1号
1965-12-20 発行

鶏の消化に関する基礎的研究Ⅰ : 食塊の嚥下部位および筋胃運動について

Fundamental studies on the digestion in the domestic fowl I : Observations on the place of deposition of the bolus and the movements of gizzard
大谷 勲
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抄録
 成鶏10羽について,無砂粒飼料を給与して消化管内から砂礫を完全に消失せしめた後,硫酸バリウムを混じた4種類の試験飼料・チュウインガム球およびガラス球・砂礫等を摂食せしめ, X線透視および間接撮影法により食塊の嚥下部位を検討するとともに筋胃嚢を造影し,また筋胃に銀線を縫い付けた後,X線観察によって筋肉運動を研究した.その結果は次の通りである.
1) 給与形態の異なる試験飼料の嚥下食塊は,摂食当初は嗉嚢に入ることなく直接筋肉へ到達したが,爾後の食塊は嗉嚢内へ嚥下して滞留する.
 直接筋胃に入る食塊量は数gと推定された.
2) 試験飼料は粒餌,粉餌の別なしまた粒餌では粒の大小に関係なく,食塊は同一径路により嚥下される.また鶏が空腹,満腹の何れの条件下でも,食塊の礁下部位には差違がない.
3) 軟質のチューインガム球は嗉嚢内へ,ガラス球・砂礫では筋胃内へ殆と・全て嚥下した.
4) ガラス球・砂礫を飽食せしめても,嗉嚢内へ嚥下して滞留することは殆どない.
  砂礫の摂取は筋胃機能に必要とする量に留まると判断される.
5) 運動休止期の筋胃嚢は腹腔中央部より前側に位置し,円柱状を呈し,前方に傾斜して存在する.
6) 筋胃連動の開始とともに胃嚢は次第に後方へ傾き,遂には休止期の位置に対して反転した形態の後球型となり,直ちに弛緩して休止期に移る運動を反復する.
7) 連動開始から胃嚢反転に至る運動は,比較的緩慢な速度で進行し,収縮は顕著でなく,胃嚢位置の移動を伴う運動を主とし,その直後に起る胃嚢球型収縮は短時間に経過する強烈な収縮弛緩運動である.
8) 筋胃外側に縫着した銀線の位置は,収縮運動中に胃嚢形態に著変があったにも拘わらず変化が殆ど認められない.
 筋胃嚢の運動は蠕動的でなく, むしろ反芻獣の第2胃運動に類似した強力な収縮運動であると判定された.
9) 筋胃における食糜の機械的作用は,特に胃嚢球型収縮期に行なわれるものと判定され, また食塊の筋胃への進入は休止期の直前,十二指腸への移行は球形収縮期に行なわれることが示唆された.