広島大学水畜産学部紀要 12巻 1号
1973-06-30 発行

養殖マダイの体色改善に関する研究 : I. アメリカザリガニ甲殻カロチノイドの投与効果

Natural Coloration of Cultured Red Sea Bream,Pagrus major (T. & S.) : I. Feeding Effects of Crayfish Carapace Carotenoids
鹿山 光
中川 平介
山田 久
村上 豊
本文ファイル
抄録
養殖マダイは,とくにその体表皮の色に問題がある.天然産のものと比較すると,マダイ本来の鮮やかな赤い色調が褪色して黒味を帯びた養殖ものが得られる.この欠陥を改良するため,アメリカザリガニの甲殻カロチノイドを人工飼料に添加して,養殖マダイの体色改善に資する目的をもった飼育試験を試み,以下の結果を得た.

1. アメリカザリガニ甲殻カロチノイドは,β-カロチン,アスタキサンチン・エステル,アスタシンおよびアスタキサンチンを主要成分とするが,なお未同定の数種カロチノイドを含む.遊離型のアスタキサンチンは甲穀中では主としてカロチノプロテインとして存在する.

2. 当才魚および一年魚のマダイに対する基本飼料への各種カロチノイドの添加飼育試験は,肉眼的観察および体表皮と鰭に存在する総カロチノイド含量から判定して,アメリカザリガニ甲殼脂質の添加区(A-5)が最も良好で,次いで甲殻粉末添加区(A-6,B-1)であった.但し,甲殻粉末の大量添加はマダイの栄養上好ましくなく,増重量が他と較べて劣っていた.また,カンタキサンチン添加区(A-2)は僅かな効果を示したが,β-カロチン(A-1),アメリカザリガニ甲殻脂質不ケン化物を分別して得たカロチン類(A-3)とキサントフィル類(A-4)の添加区は効果がみられなかった.

3. マダイのカロチノイドは大部分体表皮および鰭に局在し,主としてアスタキサンチン・エステルと他のキサントフィル・エステル類として存在する.

4. 飼育試験でマダイの発色に効果のみられたアメリカザリガニ甲殼脂質および甲殻粉末添加区のマダイ体表皮のカロチノイドは主としてアスタキサンチン・エステルおよび他のキサントフィル・エステル類を含有するが,他の区では前者が検出されず,カンタキサンチン投与区で痕跡程度認められた.したがって・マダイ本来の赤色調の発色にはアスタキサンチン・エステルが大いに寄与すると考えられ,人工飼料に遊離あるいはエステル型のアスタキサンチンまたはクラスタシアニンを添加することによってマダイ体色の改善が可能である.

5. アメリカザリガニ甲殼およびマダイの体表皮に存在して赤い色調を出すアスタキサンチン・エステルの構成脂肪酸は単一のものではなく,トリグリセリドの組成と同じように種々の脂肪酸から構成されていることをみた.

6. マダイにおける植物カロチノイドから動物カロチノイド,とくにアスタキサンチンへの代謝について錦鯉および金魚あるいは甲殻類と比較し,マダイの変換能の劣ることを考察した.