広島大学水畜産学部紀要 11巻 1号
1972-07-31 発行

芦田川におけるイトメTylorrhynchus heterochaetusの生殖群泳について

An Ecological Study on the Swarming of the So-called Japanese Palolo in Ashida River
笠原 正五郎
床嶋 純孝
中村 中六
本文ファイル
抄録
芦田川河口域にはイトメのほか5種類の多毛環虫類が分布しており,筆者らはそれらの生態について研究調査を行なっているが,そのうち,1968,69年にわたりイトメ(生殖型個体はバチまたは日本パロロと云われる)の生殖群泳に関する生態について行なった調査の結果,次のような知見を得た.

1) イトメは,河口(本学箕島実験所前,st15)より約6.6km上流のst.4の辺りを上限とし,河口より約1.9km上流のst.13付近を下限とする約4.7kmの区間にわたって分布する.
2) バチの生殖群泳は毎年旧暦10月および11月の3,4,5日即ち新月大潮の頃の各3日間に出現する.
3) 上記の出現時期には,満潮後30~50分頃から群泳が始まりやがて退潮に乗って流下するが,群泳は約2時間(第3日は1時間余)で終焉する.また,st.7(河口より約5.5km上流)におけるバチの採集量は第1日が最も多く,第2日は大幅に減り第3日は極めて少なかった.
4) 群泳時間の後半は退潮の流れが激しくなり,バチはすべて濡筋に収斂されるのでそこでは急激な増加がみられる反面,川の浅所では群泳個体は殆どみられなくなる.
5) 群泳の初期は雌の割合が著しく少ないが,次第に増加し終期には雄を上廻るようになった.1晩の全採集個体についてみた性比は,ほぼ雌1:雄2であった.
6) バチの大きさは,始めは雌雄とも小形のものが多いが,大形のものが漸次その数を増すようになり,特に終期にはその割合が著しく大きくなる.
7) バチの体色は游出後の時間経過に従って変化し,雌の場合は橙黄色から薄緑色になり,さらに青緑色になると放卵がみられ,雄は淡紅白色から乳白色に変り放精する.この変化は体壁が破れ易くなる変化とともに,群泳出現の第1日から第3日にかけ順次にその多くの個体にみられる現象でもあり,これらからバチの多くは游出後群泳を繰返し3日目に産卵するものと推定される.
8) 孕卵数は個体による変異が大きく,53.5×103~714.5×103を示した.