広島大学生物生産学部紀要 28巻 1・2号
1989-11 発行

イワシパッチ網の漁獲物とカタクチイワシをめぐる魚類の漁獲量の動向

On Fishes Caught by the Sardine Drag Net, 'Patchi-ami', with Analysis of Fluctuations in Catch of Anchovy and Associated Species
橋本 博明
岡島 静香
角田 俊平
本文ファイル
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抄録
瀬戸内海のイワシパッチ網は主としてカタクチイワシを対象に操業されている。1984年と、'86年に、燧灘のイワシパッチ網船より6標本を得て、各標本の魚種組成を明らかにし、そこに出現した体長または全長10cm以上の魚類の消化管内容物を調べた。さらに、その結果をもとに、カタクチイワシを瀬戸内海における魚類生産の鍵種と位置づけ、同種をめぐる食物関係(競合・被食-捕食関係)に視点をおいて、瀬戸内海における1969~'86年の魚種別漁獲量の動向を解析した。

パッチ網の漁獲物は、各標本ともカタクチイワシの占める割合が大きく(全長10cm未満の漁獲物では70.0~99.8%を占めた)、他に16種類の魚類と、エビ類、カニ類、イカ類が出現した。魚類のうち、タチウオ、トカゲエソ、シログチはしばしば漁獲されていた。また、マイワシは稚魚と成魚(体長16~18cm)が出現し、稚魚は7月の標本で6.9%、8月では2.4%を占めた。従来、本種は内海では産卵しないとされていたが、稚魚と成魚の出現は本種の内海での産卵の可能性を示唆するものである。

体長または全長10cm以上の魚類の食性の特微は、タチウオ、トカゲエソ、シログチ、マサバ、トラフグがカタクチイワシを多食していたこと、そしてマイワシはCoscinodiscusのみを摂食していたものの、それは痕跡的であり、コノシロ、サッパは空胃の個体が多かったことである。前者に属する魚類はカタクチイワシを捕食するために、その群れに寄ってきたものと考えられ、後者は、偶然カタクチイワシの群れの近くにいたものが混獲されたと思われる。

漁獲量の解析は、カタクチイワシ、マイワシ、アジ・サバ類、魚食性魚類(ブリ類、ヒラメ、エソ類、タチウオ、サワラ類、スズキ)、ニべ・グチ類について行った。内海におけるこれら漁獲量の動向についての全体的な特徴は、1970年代初期からみられたマイワシ資源の増大に伴う内海への入り込みによって、マイワシ漁獲景が増加し、カタクチイワシ、アジ・サバ類は減少したことである。なお近年において、マイワシの減少に伴い、カタクチイワシとアジ・サバ類の漁獲盤が回復するという種の交代現象が認められた。

カタクチイワシの多獲域である内海東部と中部では、カタクチイワシ漁獲量の変動と連動するように魚食性魚類のそれも変動した。

ニべ・グチ類の漁獲量の動向については上記の魚類の漁獲量との関連性は認められなかった。この点に関しては、本類がカタクチイワシを摂食するものの、他の魚類、甲殻類をも多食することによるものと推察した。
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