太田川水系の全体を網羅するいろいろな幼虫群集を調べることによって,ナガレトビケラ科幼虫の分布様式を比較した。合計15種が採集され,どの環境パラメータについても,分布範囲と平均値は種間で著しく異なった。Rhyacophila bilobata,R. shikotsuensisおよびR. sp. RFは,源流からの距離,川幅および流域面積について,狭い範囲と小さな標準偏差を示した。各パラメータを標準化し,8つのパラメータについての分布平均に基づいてクラスター分析を行った。すべて原始的な種であるR. bilobata,R. clemensとR. sp. RKからなるクラスターは,高標高,急な川床勾配,小規模,貧栄養で低温の水域に適応してきたと推定された。共に派生的な種であるR. nigrocephalaとR.yamanakensisからなるクラスターは,低標高,緩い川床勾配,大規模,富栄養で高温の水域に適応してきたと推定された。さらに,Nigrocephalaグループの一員であるR. nigrocephalaがR.nigrocephalaのクラスターを形成したのに対し,同グループのR. kawamuraeはApsilochoremasutshanumのクラスターに加わった。これらの結果は,祖先種の本来の生息地は源流域であること,分布制限要因は種間で異なること,さらに近縁種間で何らかの棲み分けがあることを示唆する。