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ID 32610
file
title alternative
シャルル゠ルイ・フィリップ『クロキニョル』における時間の問題
creator
Tokai, Maiko
subject
Charles-Louis Philippe
le temps
le suicide
le populisme
NDC
French literature
abstract
文学テクストにおける時間を考察しようとするとき、我々は二つの方向性を見出す。一つ目は、ポール・リクールの大著が代表するような、物語られる時間の問題。物語を牽引する時間の経過が、いかに読者に追体験されるのか。そして、二つ目は、ジョルジュ・プーレが仔細に分析したような、それぞれの作者が作品内で表明する「人間的時間」の問題。テクスト内で吐露される個人の内的時間、哲学的思索の探究である。

本稿では、後者すなわち「人間的時間」をシャルル゠ルイ・フィリップ(1874-1909)のテクスト『クロキニョル』に探る。二人の登場人物を自殺に追いやるものとして時間意識の存在が認められることを指摘し、それがいかなる性質のものであるかを分析していく。

そこにはまず、近現代の人間の生活が否応なく、時間に支配されているという前提がある。各々の生活は、生きる場所、環境、職業等によって規定され、そこに各々の時間意識が形成される。『クロキニョル』における二人の登場人物は、そうした現実の時間意識を捨て、外へ飛び出していくのだが、一度外の自由な時間意識を知った彼らが再び内に戻り、現実の生活を生き直すことはない。なぜなら、彼らは幻想から現実に戻るための時間意識の着脱に失敗するからだ。フィリップの捉える時間意識とは、一朝一夕に取り替えられるものではなく、人間の存在自体を決定づけてしまうほど厳格なものなのである。

こうしたフィリップ独特の見解は、小さな町の木靴屋の息子として生まれ、パリで公務員として働きながら作家として成功したというフィリップの出自、そこにおいてこそ感得される多様な時間意識が培ったものでもあろうか。知識階級出身者以外の者が作家となることのなかった当時、まったく異質な二つの環境をもつフィリップのような作家は稀であった。つまり、フィリップが鋭敏に捉えた時間意識は、彼が「ポピュリスムの先駆者」であるという背景を裏付けるものとも考えられるのである。

「小役人」の悲哀を描いた数ある小説にあって、その悲哀の軸を時間意識のうちに置くという独創を見せる『クロキニョル』は、新たな「人間的時間」の切り取り方を提示したという意味においても、非常に興味深い小説であると言えるだろう。そしてさらに、その背景に、作家の生きた二重の空間と時間意識を見ることは、ポピュリスム文学がもたらした新たな価値観を見出すことにもなると考えられるのである。
journal title
The Hiroshima University studies, Graduate School of Letters
volume
Volume 71
start page
87
end page
98
date of issued
2011-12-26
publisher
広島大学大学院文学研究科
issn
1347-7013
ncid
SelfDOI
language
fre
nii type
Departmental Bulletin Paper
HU type
Departmental Bulletin Papers
DCMI type
text
format
application/pdf
text version
publisher
department
Graduate School of Letters
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