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ID 31666
本文ファイル
別タイトル
Changes in and Variations of Activity-Travel Behavior
著者
NDC
運輸・交通
抄録
本研究では,活動・交通行動の変動・変化の観点から交通計画の実現過程に付随する不確実性について議論を加える.特に,需要予測や施策評価が,活動・交通行動に関する情報の抽出/集約プロセスを辿ってなされる点を踏まえ,変動の観点から見た施策検討プロセス上に発生し得る不確実性,変化の観点から見た時間軸上に発生し得る不確実性を明らかにすることを目的とする.

従来から,現時点のデータを用いて将来時点の状態を予測・評価することを主たる目的とする交通計画の実現過程には,不可避的に不確実性が伴うことは指摘されてきた.また,その対応として,幅を持たせた予測値の提示が有用であることが指摘されてきた.しかしながら,交通計画の実現過程においてどのような不確実性がどの程度内在しているのかに関する理解は極めて限られたものであり,結果として,不確実性はないものと仮定して計画を進めざるを得ない状況にある.本研究は,情報の抽出/集約プロセスにおいて捉えきれなかった変動・変化が不確実性を生む主要な要因の1つであると捉え,その存在を定量的に示すことを通じて,今後の交通計画の実現過程の改善のための基礎的情報の提供を試みるものである.

本論文は8章で構成される.

第1章では,本研究の背景及び動機付けを明確にするとともに,本研究の目的について述べた.併せて,変動・変化の定義付けを行った.

第2章では,まず,変動・変化を捉えるためのデータ取得に関する既往研究及び変動・変化の把握を試みた既往研究を整理するとともに,現在残されている研究課題を明らかにした.また,既往研究を踏まえて,本研究の位置付けを明確にした.

第3章では,本研究で構築する変動・変化を捉えるためのモデルの基本的な定式化と,モデルの同定方法について述べた.具体的には,まず,非観測要因の影響も含めた活動・交通行動の変動特性解析を狙いとして,線形モデル,離散モデル,離散連続モデルをマルチレベル分析へ拡張した.この際,活動・交通行動の変動を生じさせる変動要因として,個人間変動,世帯間変動,経日変動,空間変動,個人内変動の5つを設定した.これによって,例えば,ある一日において観測された交通行動を代表的な行動と仮定することにより生じる変動情報の損失,交通行動の個人間の同質性を仮定するゾーン単位の分析により生じる変動情報の損失等を,様々な行動側面を対象として定量的に把握することができるようになった.加えて,個人変動と空間変動の交互作用から生じる共変動は,個人に固有の空間変動の影響を表すことを指摘し,交互作用を表す新たなランダム変数の導入によって共変動の影響を定量的に把握できることを示した.また,マルチレベルモデルにおける縮約推定量の統計的性質及び現象理解としての有用性を指摘し,本研究での応用場面について述べた,その後,以上に見た,ある断面における変動を詳細に把握するためのマルチレベルモデルの手法を,時間軸上の変化を捉えるために拡張する方法を提案した.また,離散的性質を有する場合の行動変化については,その性質上,Entry point及びExit pointとその周辺を含めた期間を連続的に観測して変化を追う必要があることから,ベイズ更新の概念に基づくモニタリング手法を提案した.

最後に,以上述べたモデルを同定するための手法として,近年盛んに利用されつつあるマルコフ連鎖モンテカルロ法による推定方法について整理した.

つづく第4章及び5章では変動に関する実証分析を行った.

第4章では,1999年にドイツのカールスルーエ・ハレにおいて調査された6週間の交通日誌データを用いて,複数の行動側面における活動・交通行動の変動特性を明らかにした.具体的には,出発時刻,活動発生,交通手段選択,時間利用の4つの行動側面を対象とし,各交通現象に内在する全変動を,個人間変動,世帯間変動,空間変動,経日変動,個人間変動に分解した.その後,各種変動要因の観測可能性の検証,共変動(複数の変動要因の交互作用により生じる変動)の影響の検証を行った.以上の分析を通じて,出発時刻,活動発生,交通手段選択,時間利用の4つの行動側面において,個々人のある断面(1日)において観測された行動を代表的な行動結果と見なせ,かつ,これらの結果を集計した場合に観測される日単位の集計量が代表性を有すると見なせる行動側面は,交通手段選択のみであることが示唆された.また,自由裁量型の活動において特に個人内変動が高いこと,個人内変動の観測可能性が特に低いこと等が示された.

第5章では,2001年の社会生活基本調査から得られたデータを用いて,実証的に活動種類のセグメントを行い,提案分類とアプリオリな分類が捉えることのできる変動割合の差異を明らかにした.活動開始時刻を対象とした実証分析では,提案した手法を用いた場合に観測される変動割合とアプリオリなセグメントを用いた場合に観測される変動割合は,3倍以上異なることが示された.その後,活動や交通行動の様式が他の集団とは大きく異なると考えられる,高い活動抵抗を有するサブ集団を抽出するという観点から,活動抵抗に基づく新たな母集団のセグメント手法を提案し,1)過疎地域における買物活動に対する活動抵抗の高い集団(使用データ:2002年の島根県赤来町のアクティビティダイアリーデータ),2)途上国における学校参加に対する活動抵抗の高い集団(使用データ:2004年のダッカのパーソントリップデータ)の抽出を試みた.結果,過疎地域における買物活動参加に対する活動抵抗の高いサブ集団は,「自動車の利用可能性」や「高齢者かどうか」だけでは十分に判別できないこと,学校活動参加に対する活動抵抗の高いサブ集団は,「世帯収入」だけでは十分に判別できないことが示唆された.加えて,セグメントごとに変動構造を特定し,比較する有用性を実証した.具体的には,[自宅内介護者・自宅外介護者・非介護者]×[平日・休日]の計6つのセグメントを設定し,その変動構造の差異を明らかにした.その結果,平日に比べて休日の方が非観測変動は大きいこと,自宅内介護者はICTツールの保有による影響を受けやすいこと等が明らかとなった.

以上の4章及び5章の結果を要するに,行動に内在する変動の情報を抽出/集約する施策検討プロセスにおいては,1日の行動データやゾーン単位の集計モデル,アプリオリなセグメントを採用することによって,無視できない量の変動情報を失っていることが定量的に示された.

第6章及び7章において変化に関する実証分析を行った.

第6章では,4時点の繰り返し断面データ(1986,1991,2001,2006年の社会生活基本調査データ)を用いて,過去20年間の(連続的性質を有する)時間利用に関する意思決定の構造的変化を明らかにした.特に,第3章で構築した変動特性解析手法を援用して変化をみることにより,非観測個人間変動及び非観測空間変動の変化についても考察を加えた。その結果,非観測変動の占める割合が高くなる方向に変動構造は変化していることが明らかとなった.このことは,使用する説明変数を所与とした場合,たとえモデル構造内のパラメータ及び観測値を最新のデータに更新したとしても,予測精度は経年的に低下することを意味している.この原因の1つとして,行動の多様化が起因している可能性が高い.この点を踏まえると,ある時点において特定したモデルを将来時点に拡張する際には,"行動とそれを規定する要素の因果関係は安定しておらず,時間軸上に変化し得る"点を考慮するだけでなく,"行動の多様化により,行動とそれを規定する要素の因果関係は経年的に複雑化している可能性が高い"点を踏まえる必要があることが示唆された.

第7章では,Entry point(Exit point)を持つ変化要因の介入の例として,2008年4月の暫定税率の失効(25.1円/リットル)及び2008年5月の復活,2008年8月までのガソリン価格の高騰及びその後の急落を挙げ,離散的性質を有する変化に関する実証分析を行った.具体的には,高速道路の路線別月間交通量データを用いて,ベイズ更新に基づく価格弾力性の逐次モニタリングを行い,変化の(非)対称性及び反応の遅れ(lag)/先行(lead)について考察を加えた.結果,暫定税率の失効/復活については,その交通行動への影響は大きいものの,一時的な影響を及ぼすに過ぎないことが明らかとなった.ただし,暫定税率の失効前後に遅れ(lag)/先行(lead)と思われる変化が観測されており,"行動変化は変化要因の介入により瞬時に起こるわけではなく,その前後の期間にまで影響を及ぼす"ことが示唆された.また,都市部の路線においては,2008年8月までのガソリン価格の高騰による一時的な価格上昇によって,たとえその後ガソリン価格がもとの水準に戻ったとしても,高速道路交通量は完全にはもとには戻らない可能性があることが示唆された.このことから,"行動変化は非可逆的性質を有する"ことが示唆された.

以上の6章及び7章の結果を要するに,断面データを用いて将来時点の予測・評価を行う際に必要となる仮説,"行動変化は瞬時に起こる","行動変化は対称的かつ可逆的性質を有する","行動とそれを規定する要素の因果関係は安定しており,時間軸上に変化しない"は,少なくとも上の実証分析で扱ったケースにおいては棄却された.

第8章では,本研究で得られた研究成果及び今後の研究課題を整理するとともに,結果から示唆される従来の交通計画策定プロセスにおける問題点について考察し,今後の交通行動調査及び政策分析の方向性を展望した.
言語
日本語
NII資源タイプ
学位論文
広大資料タイプ
学位論文
DCMIタイプ
text
フォーマット
application/pdf
権利情報
Copyright(c) by Author
学位記番号
甲第5268号
授与大学
広島大学(Hiroshima University)
学位名
博士(工学)
学位名の英名
Engineering
学位の種類の英名
doctoral
学位授与年月日
2010-03-23
部局名
国際協力研究科